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Vol.001 / 2026.05.23 (Sat) / No.0247
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創造性を高めようとするほど、創造は遠ざかっていく

大貫冬斗
2026.06.03READ 8 MIN
ORIGINAL QUESTION — この記事のはじまり (問い・背景)
テーマ
つくられた西洋の創造性、 立ち上がった東洋の創造性
問い・背景
創造性とは一体何であり、何のためのものなのか。西洋と東洋ではどのように捉え方が異なるのか。 西洋では、1950年以降、Creativityという言葉が使われながら、一部の天才に閉じられていた才能が、一般人でも強化しうるものとして意図的に喧伝されてきた。それらは、軍や企業の人材育成の目的であり、共産主義への対抗として同調主義の解毒剤であった。一方で、外的に獲得された創造性は、同調と大衆人気を報い、均質性を育て、イノベーションを窒息させるというジレンマも起きているのではないか。一方で、西田幾多郎、鈴木大拙、そして柳宗悦らが同時期に向き合ってきた日本的な創造性は少し趣を異にする。「絶対無から立ち上がる創造」を語った西田、「はじめから縛られていないのだから、 それから離れるとか脱するなどいうことはない」という禅を深めた鈴木、「意図を手放すことが創造を開く」といった柳。西洋の創造性(Creativity)が「つくられた」ものであると仮定するのであれば、日本(あるいは東洋)のそれは「立ち上がった」ものと言えるのではないだろうか。 そのような、西洋的な創造性と東洋的な創造性をそれぞれ理解することで、現代の世の中に、人々に求められる創造性とは、論じてみたい。

陶芸家が轆轤を回しているとき、ある瞬間から「自分が器をつくっている」という感覚が消える。手が土を導いているのか、土が手を動かしているのか、もはや区別がつかない。ジャズ奏者が即興の深みに入るとき、音楽を「演奏している」のではなく、音楽が「流れ出ている」と語る。誰もが一度は経験したことのある、その感覚——気がついたら出来ていた、という感覚——を、西洋の創造性理論は長らく例外として扱ってきた。しかし、その例外こそが本質ではないか。創造性とは、意図によって産出されるものではなく、意図が退いたときに初めて立ち上がるものではないか。この問いを、歴史と哲学と科学の三つの角度から解きほぐしてみたい。

轆轤の前に座る陶芸家は、最初こそ「この形にしよう」という意図を持って土に触れる。しかし熟練するほど、その意図は邪魔になる。「考えると失敗する」と語る職人の言葉は、世界中の工芸の現場で繰り返されてきた。スポーツ心理学が「クラッチング(choking under pressure)」と呼ぶ現象——意識的に制御しようとした瞬間に動きが崩れる——は、創造的行為においても同型の構造を持つ。意図と創造の間には、私たちが思うよりずっと深い亀裂がある。

1950年、心理学者J・P・ギルフォードは米国心理学会(APA)の会長講演で「発散的思考(Divergent Thinking)」を提唱し、創造性は一部の天才に宿る神秘ではなく、訓練によって誰もが獲得できる能力だと宣言した。この宣言は冷戦という文脈の中で生まれた。共産主義的な同調主義への対抗イデオロギーとして、米国の軍・企業・教育機関は「創造性の民主化」という言説を戦略的に普及させた。Creativityという概念は、政治的・制度的に「つくられた」のである。

同じ時期、日本では別の問いが立ち上がっていた。民藝運動の思想家・柳宗悦(1889-1961)は1928年の『工芸の道』で「美は作るものではなく、現れるものである」と述べた。職人が自我を手放したとき、「他力」が器を通じて美を顕現させる——この「他力の創造論」は、意志・技能・独創性の三位一体を前提とする西洋モデルとは存在論的に異なる。鈴木大拙が深めた禅の「無心」も同じ構造を持つ。そして米国の心理学者テレサ・アマビールが実証したのは、外的評価や報酬が創造的質を一貫して損なうという事実だった。東洋哲学の出発点に、西洋心理学が数十年かけて辿り着いた。

では、「立ち上がる創造性」を日常に呼び込むにはどうすればいいか。野中郁次郎(一橋大学名誉教授)がSECIモデルで示した「共同化(Socialization)」フェーズのヒントが使える。これは言語化も評価も介さず、ただ同じ場にいることで暗黙知が伝わるプロセスだ。完成を目指さないスケッチ、結果を評価しない対話、素材にただ触れる時間——これらは「やってみる」ではなく「ただそこにいる」という姿勢の実践である。意図を手放すことは、怠惰ではなく、創造への別の入り口だ。

社会科学者ヴラッド・グラヴェアヌ(ダブリン・シティ大学)は2013年に「5A's framework」を提唱し、創造性をActor・Action・Artifact・Audience・Affordanceという五つの関係の網の目として再定義した。創造性は個人の頭の中にあるのではなく、人と場の相互浸透の中に生起する。生物学者フランシスコ・ヴァレラとウンベルト・マトゥラーナが1974年に提唱したオートポイエーシス理論——生命システムが外部設計なく自己組織的に構造を生成する——は、この「立ち上がる創造性」の自然科学的アナロジーとして機能する。創造は設計されるのではなく、条件が整ったとき自ずと生起する。

「創造性を高めよう」という意志が、創造性の本質から遠ざける。これは逆説ではなく、構造的な必然だ。訓練によって獲得された創造性は、評価・承認・市場への適合という外発的回路に接続され、やがて「安全な創造性」へと収束する。あなたは今日、何かを手放せたか。その問いだけを残しておく。

DEEPER/学術的観点から
2010年、ハーバード・ビジネス・スクールのヘネシーとアマビールは『Annual Review of Psychology』第61巻に包括的レビューを発表し、報酬・競争・監視という外発的条件が創造的質を一貫して損なうことを数十年分の実験データから示した。驚くべきは、創造性トレーニングを受けた被験者が外的評価への感受性を高め、独創性スコアがむしろ低下するケースが確認されたことだ。「創造性教育が創造性を殺す」という逆説は、社会科学的に実証されている。一方、Ian Goodfellowらが2014年のNeurIPSで発表したGANは、「生成者」と「識別者」の対立的緊張から新しい像を産出する構造を実装した。これは禅の公案——矛盾した問いへの応答から悟りが立ち上がる——と同型であり、東洋的創造論が機械学習アーキテクチャに先行していたとも読める。
  • SIGNAL 01

    外発的条件(報酬・評価・競争)にさらされた被験者は、創造的質の指標で一貫して低下を示した。この効果は芸術・科学・ビジネスの領域を横断して再現されている。Hennessey, B. A., & Amabile, T. M. (2010). Annual Review of Psychology, 61: 569-598.

  • SIGNAL 02

    ギルフォードの1950年APA講演以降、米国の創造性研究への連邦助成金は10年間で約400%増加し、企業向け創造性研修産業が1960年代に急成長した。冷戦期の政策的投資が「訓練可能な創造性」言説を制度化した歴史的経緯を示す。Guilford, J. P. (1950). American Psychologist, 5(9): 444-454.

  • SIGNAL 03

    グラヴェアヌの5A's frameworkを用いた実証研究では、創造的成果の質は個人の能力スコアよりも「Affordance(環境の誘い)」との適合度と有意な正の相関を示した。創造性の所在が個人から関係へと移行することを示唆する。Glăveanu, V. P. (2013). Review of General Psychology, 17(1): 69-81.

  • SIGNAL 04

    Varela・Maturanaのオートポイエーシス理論は、生命システムが外部設計なく自己組織的に構造を生成することを示した。この原理は複雑系科学に援用され、創造的プロセスの「立ち上がり」モデルの自然科学的基盤として参照されている。Varela, F. J., Maturana, H. R., & Uribe, R. (1974). BioSystems, 5(4): 187-196.

KEY REFERENCE/参考文献
  • Guilford, J. P. (1950). "Creativity." American Psychologist, 5(9): 444-454. DOI: 10.1037/h0063487

    創造性概念の制度的起点となったAPA会長講演の原著。発散的思考の提唱と創造性民主化言説の出発点として、西洋型創造性モデルの歴史的文脈を理解するために不可欠。

  • Hennessey, B. A., & Amabile, T. M. (2010). "Creativity." Annual Review of Psychology, 61: 569-598. DOI: 10.1146/annurev.psych.093008.100416

    内発的動機づけと創造性の関係に関する包括的レビュー。外発的条件が創造的質を損なうという実証知見を体系化し、「創造性教育が創造性を殺す」という逆説の根拠を提供する。

  • Glăveanu, V. P. (2013). "Rewriting the Language of Creativity: The Five A's Framework." Review of General Psychology, 17(1): 69-81. DOI: 10.1037/a0029528

    創造性を個人能力から関係的・生態学的プロセスへと再定義する5A's枠組みの原著。東洋的「場の創造論」との接続軸を社会科学的に構築する。

  • Varela, F. J., Maturana, H. R., & Uribe, R. (1974). "Autopoiesis: The Organization of Living Systems, its Characterization and a Model." BioSystems, 5(4): 187-196. DOI: 10.1016/0303-2647(74)90031-8

    オートポイエーシス概念の原著論文。外部設計なき自己組織的生成という「立ち上がる創造性」の自然科学的基盤を提供する。

  • Goodfellow, I. J., Pouget-Abadie, J., Mirza, M., Xu, B., Warde-Farley, D., Ozair, S., Courville, A., & Bengio, Y. (2014). "Generative Adversarial Nets." Advances in Neural Information Processing Systems (NeurIPS), 27: 2672-2680.

    GAN(敵対的生成ネットワーク)の原著。「生成者」と「識別者」の対立的緊張から創造が立ち上がる構造が、禅の公案と同型であるという本稿の核心的論点を支える工学的根拠。

  • 柳宗悦(1928)『工芸の道』岩波書店(1985年復刊)

    「他力の美」「美は作るものではなく現れるものである」という東洋的創造論の哲学的原典。職人の自我放棄による美の顕現を論じた民藝美学の基礎文献として、西洋型モデルとの存在論的対比軸を構築する。

  • Nonaka, I., & Takeuchi, H. (1995). The Knowledge-Creating Company. Oxford University Press.

    SECIモデルと「場(Ba)」概念を提唱した経営学の古典。暗黙知の共同化プロセスが意図なき創造的学習として機能することを示し、東洋的身体知と西洋的知識管理の接点を論証する。

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